2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

短編復活

「小説すばる」掲載の短編小説群から、よりすぐりの 秀作16編を集英社文庫編集部が精選した短編集。 究極のアンソロジーと銘打たれているとおり、確かに どの作品を読んでも、感銘をうける。 当代を代表する作家16名が競演するわけだが、(浅田次郎を除いて…

魔界転生 山田風太郎

くノ一忍法帖を楽しめた読者は、この魔界転生でも風太郎ワールドを堪能できるだろう。 森宗意軒があやつるこの忍法「魔界転生」とは、この世に無念を残して死なんとする剣豪が、 愛する女人と交わってその女の体内から生まれ変わるという、あいかわらず奇想…

本の雑誌血風録 椎名誠

本の雑誌創刊前後のころを題材とした椎名誠の実録小説。 「哀愁の町に霧が降るのだ」から始まり、最近、出版された「新宿遊牧民」まで 続いている自伝的小説群のひとつに位置づけられる。 「椎名誠はひたすら書いた、沢野ひとしもひたすら描いた、目黒考二は…

鞄の中身 吉行淳之介

長編、エッセイも面白いが、吉行淳之介の短編はすばらしい。 世の中には、どうでもよいことを長々と記述する輩はいるが 核心的なこと、本質的なことをさらりと描き、分かる人に 分かってもらえばよいというスタンスの作家がいる。 吉行淳之介はその典型では…

板谷バカ三代 ゲッツ板谷

とてつもない「バカ」エピソード満載の爆笑エッセイ。 父、祖母、弟とその仲間たちという、強烈なバカ(著者がいっているのだ)のパワーに 圧倒され、腹をかかえてよじれ舞い落ちてしまう。 表紙を開けると「ばあさん」「けんちゃん」(父)「セージ」(弟)…

人生ピロピロ さとなお

広告ディレクター佐藤尚之のエッセイ集。 長い大阪勤務で培ったランチに対するこだわり、それが 東京に戻ってみると、誰もランチに誘ってくれない。 あげくに自分の歓迎会の幹事を自分がやることに。 という話からはじまり、花火、震災、ダイエットと ユニー…

人間における勝負の研究 米長邦雄

さわやか流、泥沼流といわれた米長九段、永世棋聖の古典的名著。 将棋のプロ棋士に大きな影響を与えたといわれる。 中原十六世名人のライバルとして活躍し、多くのタイトルを獲得、 そして、悲願の名人を中原から奪取し、史上最高齢の名人となった名棋士。 …

自分を生かす古武術の心得 多田容子

居合道三段、柳生新陰流兵法、手裏剣術を学ぶ時代小説作家、 多田容子が古武術についてわかりやすく論じる。 「武術は一つの感覚を身につけると、何年たっても使える」 「古武術の稽古は、頑張って身体を鍛えるというよりは、 注意深く感覚を研ぎ澄まし、い…

喜劇新思想体系 山上たつひこ

「がきデカ」で一世を風靡している少し前から描かれていた 山上たつひこの傑作ギャグ漫画だ。 虫歯のために、ほっぺたがパンパンにはれてしまい、主人公が歯医者にいったところ 「はいはい」といわれてズボンとパンツを脱がされ、おチンチンをみられ 「うー…

 代書 寝床 桂枝雀

今は亡き天才落語家、桂枝雀の落語CD。 枝雀演じる名作は、もちろん数々ある。 その中で、この代書は、地下鉄で聴いていて思わず吹き出してしまった。 そんなことは、十年ぶりくらいだった。 この代書を頼んできた松本留五郎のどぼけた間がたまらなく、おか…

バンドーに訊け! 坂東齢人 実は馳星周

馳星周として作家デビューする前、本名の坂東齢人名義で、本の雑誌に6年間書き続けた書評集だ。 齢人はレーニンからとったのだそうだ。 毎回の個人的な前振りがやたらと長く、二日酔い、競輪、愛犬の話、ゴールデンウィーク進行、年末進行に 対する愚痴など…

純粋なるもの 島朗

現役プロ棋士、島八段が、羽生世代と呼ばれる棋士たちを 描いた作品。 副題に「トップ棋士、その戦いと素顔」とあり、平成8年11月単行本 として刊行され、平成11年1月大幅加筆されて文庫化されている。 羽生、森内、佐藤、森下、郷田、先崎の面々は当時まだ…

蒼き狼 井上靖

アジアの生んだ一代の英雄、鉄木真(テムジン)・成吉思汗(ジンギスカン) の生涯を描いた長編小説だ。(テムジンがやがてモンゴルの汗となりジンギスカンとなる) 井上靖の歴史小説の代表作のひとつといってよい。この小説を好戦的な侵略者の成功物語と考…

オンリー・ミー 私だけを 三谷幸喜

三谷幸喜初のエッセイ集。 これが抜群に面白い。どの項をとっても面白くないものはないのだ。 ということは、どこから読んでも笑えるのである。 初めの部分の文章には、三十一歳のこの僕が、などとでてくるが、 仕事に乗りに乗っている若手人気脚本家が、自…

もっと知りたい武術の極意 長野峻也

現在、5作出版されている「武術」シリーズの4作目。 みな、非常に参考になる内容なのだが、 以前紹介した「誰も知らない武術のヒケツ」とともに、 この武術の極意は大きな感銘を受けた。 「武術は、老若男女の別なく、素質と才能の有無に関係なく、 誰もが達…

春秋の監 獄医立花登手控え 藤沢周平

藤沢周平の青春ものの傑作シリーズだ。 蝉しぐれなど、少年からの成長物語の名作もあるが、 こちらは、江戸小伝馬町に勤める青年医師立花登が 毎回事件と遭遇するという連作で、全4巻の構成と なっている。 おじの家に世話になって医術修行をする登は、 起倒…

ワタリ 真田剣流  白土三平

カムイ外伝が映画化されて話題となっているが、抜け忍カムイの孤独な逃亡生活 と非情な忍者の世界を描いたこの作品は、1965〜66年に少年サンデーに連載され、 のち、1982〜86年にビックコミックに連載されている。私としては、当初の 少年サンデー連載のころ…

あくび指南書 阿川弘之

海軍大好き、鉄道大好きおじさん(おじいさん)として有名な 小説家、阿川弘之の随筆集。いまや、阿川佐和子の父親と言った方が 話がはやいか。あくび指南をはじめ、すべてのタイトルが落語からとられている。 友人、師匠、世相、旅と鉄道など、その落語のタ…

19分25秒 引間徹

第17回すばる文学賞受賞作。早朝の公園で僕はその男に出会う。 サングラスをかけ、両手には小さな鉄アレイをひとつずつ握り 短く刈った髪からしぶきが散っていた。そして左足は義足。 競歩の天才だという。 僕は、競歩にのめりこみ、その男とハンデ付きの勝…

おかしな男 渥美清  小林信彦

「若き日の素顔を丹念に浮かび上がらせる、実感的人物論」と新潮文庫のカバーにあるが まさにそのとおりで、渥美清との交流を交えながら、ずっと観続けてきた 渥美のコメディアンとしての仕事に対する芸能論といったらよいだろうか。 細い目、下駄のような顔…

孫子 海音寺潮五郎

上巻は孫武、下巻はその子孫の孫臏の物語だ。 「疾きこと風の如し」などの一節からとられた風林火山、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」 などその文章は、広く知られる戦略・兵法書の「孫子」は、孫武の作とされている。 タイトルの孫子は(孔子、老子と…

史記 武帝紀 北方謙三

漢の武帝の時代、匈奴との戦いに武勲をあげた将軍衛青が武帝に見出されるところから 物語は始まり、現在2巻まで出版されている。衛青の甥の霍去病も、軍事の天才として頭角を現してきている。 西域に派遣された張騫は苦難のすえに帰還を果たし、司馬遷も登場…

裸のお百 一ノ関圭

ビックコミックで初めて読んだときはその描写力に圧倒されて、衝撃をうけたものだ。 力強い線で描かれる女性はすばらしく美しい。この骨太の作品が女性によるものだと 知ってすこし驚いた記憶がある。 「らんぷの下」「裸のお百」は、もちろん好きなのだが、…

古伝空手の発想 宇城憲治監修 小林信也

古伝空手の宇城師範に師事して5年となるスポーツライター小林氏が その武術の真髄の一端を発信しようとした本だとある。 胸の真ん中にライトがあると意識してそこから強い光を照らすと それだけで身体が強くなる、など、興味深い指摘がいくつもでてくる。 時…

カンフーパンダ

ウーグウェイ導師(ゾウガメ)が「龍の戦士」として選んだのは、5名(4匹および1羽?) の高弟マスターファイブではなく、何とぐうたらで食いしん坊のパンダ、ポーだった。 導師亡きあと、シーフー老師(レッサーパンダ)のもとで修行するが、はたして ポーは…

勇気凛凛ルリの色 浅田次郎

浅田次郎のエッセイは面白い。格調高く下品で、涙と笑いに 満ちている。 内容はバラエティに富み、ギャンブルの話、小説創作に まつわる苦労、自衛隊時代のエピソードなど、話題に事欠かない。 国家論を論じたかと思えば、排便の話もでてくる(みごとな一本…

合気道 修行 塩田剛三

合気道開祖植芝盛平の直弟子で、養神館を設立した塩田剛三の著書。 実戦合気道家として、現代武道界では広く知られた人だったそうで 数々の伝説が語られている。本書でも、自らの体験談が随所で語られている。 しかし、抽象論と武勇伝が多いこの手の本とは違…

松本紳助 島田 紳助 , 松本 人志

いやあ、テレビ番組「松本紳助」はめちゃくちゃ面白かった。 毎回、今日はどんな話をするのかワクワクしたものだ。 島田紳助の漫才をみて、お笑いを志向したという松本人志。 ここでは、紳助のしゃべりに対する絶妙な受け役として 変人ぶりを発揮していた。 …

くノ一忍法帖 山田風太郎

なんじゃあ、こりゃあ。一番最初にこの小説を読んだ時はぶっ飛んだ。 風太郎忍法帖のなかで最高傑作の一つといわれる名作。 (忍法帖は15作以上は読んでいると思うが、そのとおりだと思う) 豊臣秀頼の子供を宿した者を含む真田の女忍者5名とその暗殺に家康…