あくび指南書 阿川弘之

海軍大好き、鉄道大好きおじさん(おじいさん)として有名な
小説家、阿川弘之の随筆集。いまや、阿川佐和子の父親と言った方が
話がはやいか。

あくび指南をはじめ、すべてのタイトルが落語からとられている。
友人、師匠、世相、旅と鉄道など、その落語のタイトルにからめて語られる。

阿川弘之は、その文学作品の評価も高いが、ユーモア小説も書いており
そちらも面白い。
(「いるかの学校」など好きだなあ)
さらに、その随筆は、諧謔味あふれる内容に楽しくさせられ、
小説家としての教養と芸の深さに感心させられる。
小気味よいその文章のうまさが、読んでいて気持ちいいのだ。

山藤章二のイラストとあいまって、楽しく読める本に仕上がっていたのだが
現在、絶版のようで残念。

阿川は、吉行淳之介遠藤周作北杜夫などと交流があり、彼らのエッセイにも
登場する。「瞬間湯沸かし器」とあだ名されるほど、若いころは短気だったそうだ。
吉行のエッセイで、泊めてもらって、先に風呂にはいっている阿川に「湯加減はどうだ」
と呼びかけたところ、上のお兄さんと間違えて「はいっ」と返事をした。職業柄一生聞けない
声を聞くことができて、いい経験をさせてもらった。という一節があったような。
つまり、長幼の序に厳しい家庭で育った方みたいですね。

基調に芯の通った信念と真面目さがあるのだが、エッセイの内容はユーモアにあふれている。

この他に、おすすめのエッセイとしては、「食味風々録」がある。
食にまつわる読売文学賞受賞の名エッセイ。

食味風々録 (新潮文庫)

食味風々録 (新潮文庫)