小説

怪物はささやく パトリック・ネス

「怪物は真夜中すぎにやってきた」から始まる。重病のお母さんと二人で暮らしている十三歳の男の子コナー・オマリーのもとへ巨大なイチイの木の怪物がやってくるのだ。 怪物は3つの物語を話してきかせるから、コナーにその後、四つめの真実の物語を話すよう…

望郷の道 北方謙三

賭場を仕切る家の婿となり、家業を発展させていく前半、台湾に渡り、菓子会社を創業、発展させていく後半。ひと組の男女の出会い、別れ、再会、そして故郷の地への帰還という大河恋愛小説であり、一代の事業成功物語でもある。 北方の曽祖父がモデルとのこと…

いねむり先生 伊集院静

突然気を失うように眠ってしまうナルコレプシーという持病をもつ「先生」色川武大(阿佐田哲也)との交流を描く。妻を病で無くし傷心のサブローは、先生と出逢い、癒されていく。「チャーミング」と形容される先生の魅力、包容力、不可思議さ、孤独、寂しさ…

早雲の軍配者 他戦国時代小説

いま、戦国時代小説が新しい。富樫倫太郎「早雲の軍配者」は、足利学校で学んだ3名の学友が北条早雲、武田晴信、上杉景虎の軍配者となって活躍する三部作の第一作だ。早雲の軍配者作者: 富樫倫太郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2010/02メディア: 単…

島津奔る 池宮彰一郎

記録的な勝利を収めた朝鮮の役の退却戦から話は始まる。「シーマンズ」として彼の地で恐れられた薩摩島津の関ヶ原の物語だ。 島津義弘を英雄として描いている。「奔る(はしる)」とは、島津義弘を助けるため、国元から家臣が一人また一人と上方に向かって奔…

受け月 伊集院静

登場人物はなんらかのかたちで、野球との関わりがあり、その思い出も含めて人生の断片が切り取られている短編集。 さすがというしかないうまさだ。作品ごとに強い余韻が残る。受け月 (講談社文庫)作者: 伊集院静出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/03/15メ…

ふがいない僕は空を見た 窪美澄

コスプレセックス、出産など刺激的なシーンが出てくるが、登場人物たちは皆驚くほど純粋で生きることにひたむきだ。 久しぶりに面白い小説に出会った。ふがいない僕は空を見た作者: 窪美澄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/07メディア: 単行本購入: 13人…

抱影 北方謙三

どうしても、社会との折り合いがつかない。自らの中にある思いに突き動かされ、滅びに向かって進んでいく。そんな男の物語を、北方謙三は描き続けている。 最初に読んだのは、「檻」で、最近読んだ「煤煙」もその系統に属する。 今回は、主人公は画家であり…

冬の眠り 北方謙三

傷害致死で3年間服役した画家仲木は、知人から提供された山小屋で冬を過ごそうとしていた。 北方には、芸術家の孤独と狂気を描いた作品群があり、この作品はその最初のものらしい。 朝起きて山中を走り、暖炉で薪を燃やし、酒を飲み、深い底へ沈んでいく手前…

北斗の人 司馬遼太郎

北辰一刀流の流祖、千葉周作の半生を描いた小説だ。さわやかな青春小説ともいえる読後感だ。 「竜馬がゆく」の初めの頃に、竜馬が桶町千葉道場で修業し、四国で他流試合をするくだりの描写などに通じるものがある。(ちなみに、桶町は周作の弟千葉貞吉の道場…

餓狼伝(1) 夢枕獏

格闘のために鍛え抜かれた肉体をもつ男、丹波文七は6年前、生涯でただ一度の敗北を喫していた。 奈良公園での決闘から始まり、最後、横浜山下公園で、その宿敵プロレスラー梶原年雄と闘うまでを描く。 蹴りと関節技が、この作品の重要なファクターだ。東天の…

ダブル・ジョーカー 柳広司

「ジョーカー・ゲーム」に続き、「魔王」結城中佐率いる陸軍内スパイ組織D機関の活躍を描くスパイ・ミステリー連作集の第2作。 時代は太平洋戦争開戦前までの昭和初期だ。紹介にスタイリッシュという言葉がつかわれていたが、結城中佐のカリスマ性、冷酷さ…

弩 下川博

弩(ど)とはボーガンのような武器のこと。 時は南北朝時代、因幡の国の智土師郷(ちはじごう)の物語だ。 子持ちで男やもめの百姓吾輔、鎌倉のそばの称名寺からやってきた光信、 楠木正成の郎党の義平太とその妹小萩らが登場し、前半は村おこしの成功物語で…

射都英雄伝(しゃちょうえいゆうでん) 【第2巻〜第5巻】 金

う〜ん、この物語をどう考えればよいのか。つまり、おすすめ本としてとりあげるべきかどうかということであるが、第1巻で大いに期待がふくらんだのとは、大分ちがった内容でした。 では、面白くないのかというと、面白かったです。 イヌワシを弓で射落とした…

羊の目 伊集院静

内股に牡丹の刺青のある夜鷹に産み落とされた子タケミは侠客となり、 親と思い定めた男のために一途に殺人を重ねていく。 驚くほどの澄んだ目をしていながら、武闘においては、ヤクザを震撼させた伝説的な侠客の一生が描かれる。 牡丹の女 観音堂 ライオンの…

少年譜 伊集院静

少年小説なのであるが、少年の頃の記憶を描いた短編小説集ともいえるのではないか。 最初の「少年譜笛の音」最後の「親方と神様」はともに、最後、一気に少年が老年を迎えた場面にとんで物語は終わる。 人生で大切なことを学んだ記憶、悲しさ、せつなさを深…

カディスの赤い星 逢坂剛

PRマン・漆田亮は、得意先の日野楽器から、ある日本人ギタリストを探してくれと頼まれる。 男の名はサントス、20年前スペインの有名なギター製作者ホセ・ラモスを訪ねたという。 わずかな手掛りをもとに、漆田は、 サントス探索とともに、ダイヤが埋められた…

黄土の奔流 生島治郎

わが冒険小説オールタイムベストテンに間違いなく入る傑作だ。 舞台は第二次世界大戦中の中国・上海。主人公紅真吾は、破産状態にある。 同じ重さの黄金より高値がつくという、極上の豚毛を買い付けにいくために、 銃弾と激流の中をくぐり抜けて、揚子江を往…

射都英雄伝 【第1巻】 金庸

ついに、金庸の武侠小説を読んでしまった。 時代は、宋が金に攻め込まれ、南宋を成立させてしばらく立った頃だ。 つまり「水滸伝」「楊令伝」の時代から数十年たち、「蒼き狼」の前半のころに 相当する。 http://d.hatena.ne.jp/nayuta-mahiro/20091018 http…

錦繍 宮本輝

秋の蔵王で10年ぶりに再会した元夫婦の往復書簡で展開する。 妻は再婚後、知的障害をかかえた子供をもうけて育てている。夫は落ちぶれて女と同居している。 ある事件から離婚した二人が、そこからの歩んできた道のりと、それぞれの思いが美しい言葉で綴られ…

麻雀放浪紀 阿佐田哲也

終戦直後、中学を卒業した「坊や哲」は博打の世界に足を踏み入れ、 麻雀に深くのめりこんでいく。 「青春編」最後では、「ドサ健」「女衒の達」「出目徳」と青天井麻雀の 激闘を繰り広げる。 「風雲編」「激闘編」「番外編」と全4巻のピカレスクロマン(悪漢…

ア・ルース・ボーイ 佐伯一麦

仙台の有名進学校に通う高校生が学校を中退し、彼女が産んだ赤ん坊(自分の子ではない)と 一緒に狭いアパートに住み、電気工見習いとして仕事を覚えながら現実を見据え成長していく。薦められたのだが、純文学の青春小説と聞いて、読むのが億劫だった。 し…

新宿遊牧民 椎名誠

椎名誠の自伝的小説シリーズの最新刊。 「本の雑誌血風録」のあと、「新宿熱風どかどか団」を執筆し 本作となる。 何か面白い遊びを思いつくとみんなを集めてやっていたガキ大将 のころと全く同様に、椎名誠は、まわりの仲間を巻き込み、世界を旅してルポを…

翼はいつまでも 川上健一

少年小説のベストテンには必ず入ると確信する小説。 主人公は、野球部補欠の中学三年生の神山少年だ。 なんとなく自信がもてない平凡な彼は、ある日米軍放送の ラジオでビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」を 聴いて、電撃的ショックをうける。その興…

秘剣 白石一郎

傑作時代短編集。表題作「秘剣」は白石一郎の代表作といってもいい名品だと思う。 父の部下たちにお茶をだしていた娘は、若者の指が欠けていることに気づいて お茶をこぼしてしまう。若者はさわやかに穏やかなものごしで、その粗相に対する。 娘は、気持ちを…

闇の歯車 藤沢周平

初めて読んだ藤沢周平の作品だ。筒井康隆の「みだれ撃ち涜書ノート」で紹介されていた のをみて興味をもったのだ。 藤沢周平は、時代小説の国民的作家として、多くの読者を獲得したが、本作品は 犯罪小説で、押し込み強盗を計画した盗賊が、チームを組成し、…

少年の眼 川本三郎選

ブックガイド、シネマガイドとして、優れた目利きである川本三郎が 選定した、少年を主人公とした短編アンソロジー。 その紹介は、川本による本書巻末の少年の多様なイメージという選者解説で、 言い尽くされている。 現代に生きる、より複雑で屈折している…

空海の風景 司馬遼太郎

唐の都にして国際都市、長安と、日本の生んだ天才空海。 この取り合わせはなんと魅力的であろうか。 当時の中国は、西域との通商もさかんで、紅毛碧眼の人種が長安の街路を 行きかっていた。その服装も色鮮やかで、きらびやかな宝飾品も女性を着飾っていたは…

浪漫疾風録 生島治郎

傑作「黄土の奔流」の作者にして、日本ハードボイルドの草分 生島治郎の編集者時代を描いた実名小説。 主人公、越路玄一郎は自分の分身だとしているが、その他は 実名で登場する。 越路は早川書房に入社し、「EQMM(エラリークインズミステリマガジン)」の 編集者から編…

夢の始末書 村松友視

村松友視は中央公論社に18年8ヵ月勤めて、作家として独立、直木賞作家となる。 その編集者の時代に「作家たちとの幻想的なライブを愉しんだ」と言い、 しかし、多くの人びとに迷惑もかけたので、「始末書」という言葉をからめたのだ と、あとがきにある。 登…