2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

翼はいつまでも 川上健一

少年小説のベストテンには必ず入ると確信する小説。 主人公は、野球部補欠の中学三年生の神山少年だ。 なんとなく自信がもてない平凡な彼は、ある日米軍放送の ラジオでビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」を 聴いて、電撃的ショックをうける。その興…

秘剣 白石一郎

傑作時代短編集。表題作「秘剣」は白石一郎の代表作といってもいい名品だと思う。 父の部下たちにお茶をだしていた娘は、若者の指が欠けていることに気づいて お茶をこぼしてしまう。若者はさわやかに穏やかなものごしで、その粗相に対する。 娘は、気持ちを…

わたしのマトカ 片桐はいり

女優片桐はいりの初エッセイ。これが初めて書いたとは思えない平明な文章で引き込まれるように読ませられる。 映画「かもめ食堂」撮影のためにフィンランドに滞在したことをきっかけに 書き下ろされたとあるが、書かせた編集者はえらい。森と湖の人々との交…

円生と志ん生 井上ひさし

昭和20年夏終戦直前から昭和22年春まで、旧満州国南端の大連を舞台とした戯曲。 五代目志ん生こと美濃部孝蔵(55歳) 六代目円生こと山崎松尾(45歳) を主人公に、大連の、 旅館「日本館」 遊郭の置屋「福助」 町外れの廃屋 委託販売喫茶「コロンバン」 カ…

大山康晴の晩節 河口俊彦

不世出の将棋名人、大山康晴を描いた傑作評伝。 傍らで、同じ棋士として見つめた河口俊彦でなければ書けない作品だ。 名人在位18期、憎らしいくらい負けない大名人だったが、 そのすごさは、むしろ、名人を失冠した後の50代以降にある。 将棋のプロの世界…

闇の歯車 藤沢周平

初めて読んだ藤沢周平の作品だ。筒井康隆の「みだれ撃ち涜書ノート」で紹介されていた のをみて興味をもったのだ。 藤沢周平は、時代小説の国民的作家として、多くの読者を獲得したが、本作品は 犯罪小説で、押し込み強盗を計画した盗賊が、チームを組成し、…

少年の眼 川本三郎選

ブックガイド、シネマガイドとして、優れた目利きである川本三郎が 選定した、少年を主人公とした短編アンソロジー。 その紹介は、川本による本書巻末の少年の多様なイメージという選者解説で、 言い尽くされている。 現代に生きる、より複雑で屈折している…

BESTっス! ゲッツ板谷

しばらく目を離していたら、ゲッツ板谷のベスト本がでていた。 知らなかった。早速読んで、また、腹をかかえることとなった。 「許してガリレオ!」「妄想シャーマンタンク」「直感サバンナ」 「戦力外ポーク」「情熱チャンジャリータ」の5冊から抜粋した エ…

空海の風景 司馬遼太郎

唐の都にして国際都市、長安と、日本の生んだ天才空海。 この取り合わせはなんと魅力的であろうか。 当時の中国は、西域との通商もさかんで、紅毛碧眼の人種が長安の街路を 行きかっていた。その服装も色鮮やかで、きらびやかな宝飾品も女性を着飾っていたは…

浪漫疾風録 生島治郎

傑作「黄土の奔流」の作者にして、日本ハードボイルドの草分 生島治郎の編集者時代を描いた実名小説。 主人公、越路玄一郎は自分の分身だとしているが、その他は 実名で登場する。 越路は早川書房に入社し、「EQMM(エラリークインズミステリマガジン)」の 編集者から編…

頭脳勝負 渡辺明

将棋界のビッグタイトル「竜王」を5期連続保持して、昨年永世竜王となった 渡辺明竜王が、2007年多くの人に将棋の面白さを知ってもらいたいと思って 書いた本だ。 もはや、若手という言い方は失礼にあたるだろう。いま、対局している今期 竜王戦では、森内九…

夢の始末書 村松友視

村松友視は中央公論社に18年8ヵ月勤めて、作家として独立、直木賞作家となる。 その編集者の時代に「作家たちとの幻想的なライブを愉しんだ」と言い、 しかし、多くの人びとに迷惑もかけたので、「始末書」という言葉をからめたのだ と、あとがきにある。 登…

火の鳥 鳳凰編 手塚治虫

ご存知、手塚治虫の代表作にして不朽の名作、火の鳥の中の一作だ。 火の鳥の中で、この「鳳凰編」には、最も大きな感銘をうけ、何度読み返したか わからない。時は、奈良時代、片目が見えず、片手もなく生まれた我王の半生を中心に 物語は展開していく。我王…