2010-01-01から1年間の記事一覧

フシギなくらい見えてくる!本当にわかる心理学 植木理恵

これはスゴイ本だと思う。心理学を「現象から学ぶ」「実験で測定する」「観察で見抜く」「理論を整理する」「技法として生かす」という切り口で整理し、解説している。 これまでバラバラに吸収していた心理学の知識(誰でも、テレビなどで何がなし聞いたこと…

食味風々録 阿川弘之

執筆時、八十歳になるかならぬかだが、この生き生きとした文章はどうだろうか。食べ物に対する記憶が鮮やかに語られていく。文士たちとの交流、戦時中の海軍での食事、ハワイ、パリ、上海など海外でのエピソードに、豊かな気分にさせられ、にんまりしながら…

仏果を得ず 三浦しをん

健(たける)が師匠の銀太夫から兎一郎とコンビを組むように言われるところから物語は始まる。 健はまだ三十ちょっとの若手に属する文楽の太夫だ。文楽は義太夫節、三味線、人形劇からなる人形浄瑠璃のこと。健は義太夫節を語り、兎一郎は三味線を弾く。時に…

男気万字固め 吉田豪

これはすごい対談本だ。 ・山城新伍 ・ガッツ石松 ・張本勲 ・小林亜星 ・さいとう・たかを (文庫化記念のボーナストラックとして) ・本宮ひろ志 ・乙武洋匡 という男気あふれる面々へのインタビュー集である。 この男たちへの並々ならぬ興味によって、対…

ショーケン 萩原健一

ショーケン萩原健一の自叙伝。坪内祐三と福田和也の両氏が「ショーケン」はいいと対談で話していたので、読んでみたのだが、とても面白かった。 テンプターズ解散後、1983年大麻取締法違反による逮捕、2005年恐喝未遂による逮捕と、これまで3度のどん底を味…

禅 迷わずまっすぐ 則竹秀南

刊行時、京都妙心寺山内霊雲院住職である著者が、かつて三十三年間つかえた無文老師について語ったもの。 人生の折り返しを過ぎてしまったなどというのは、まだ、同じ年月を生きることを前提にしているが、今の息の次の息ができるかどうかがわからぬのがこの…

北斗の人 司馬遼太郎

北辰一刀流の流祖、千葉周作の半生を描いた小説だ。さわやかな青春小説ともいえる読後感だ。 「竜馬がゆく」の初めの頃に、竜馬が桶町千葉道場で修業し、四国で他流試合をするくだりの描写などに通じるものがある。(ちなみに、桶町は周作の弟千葉貞吉の道場…

愚者の旅―わがドラマ放浪 倉本聰

「前略おふくろ様」「北の国から」の倉本聰が、脚本家としての半生を振り返った。 ニッポン放送時代、NHKとのケンカ、札幌へ、そして富良野塾開設へと人生は展開していく。 その間、様々な人たちとの劇的な出逢い、怒りに身を震わせる仕打ち、感激に涙を…

アイム・ファイン! I’m Fine!  浅田次郎

JALの機内誌に連載のエッセイ集第2弾。このところ、めっきり航空機を利用しなくなったが、毎月この連載を読むのを楽しみにしていた。改めて読んでみても、数多くの旅をした人だけが語れる体験談は、そのユニークな行動とあいまって、惹き込まれていく。中…

合気道の解 安藤毎夫

合気道養神館創設者塩田剛三の高弟で、養神館龍を率いる安藤師範による2冊目の著書だ。 率直で真摯な人柄がうかがえる文章で、塩田先生との思い出、修業時代のエピソードが語られる。 伝説的な強さを誇った合気道開祖植芝盛平と塩田館長とのやりとりなど興味…

餓狼伝(1) 夢枕獏

格闘のために鍛え抜かれた肉体をもつ男、丹波文七は6年前、生涯でただ一度の敗北を喫していた。 奈良公園での決闘から始まり、最後、横浜山下公園で、その宿敵プロレスラー梶原年雄と闘うまでを描く。 蹴りと関節技が、この作品の重要なファクターだ。東天の…

桂米朝 私の履歴書 桂米朝

日経新聞連載の桂米朝の自伝。米朝よもやま噺で、つれづれに語られていた思い出が、自伝で読むとつながってくる。きちんと分けた髪型でいつも本を読んでいる様子から、てっきり事務員かなと思っていたところ、高座に上がって落語を語り始めたのでびっくりし…

チーズバーガーズ ボブ・グリーン

モハメド・アリへの取材の模様を描いた「世界一有名な男」 五十五歳で文字を習おうとしている配管工をとりあげた「男のなかの男」 高校時代の親友5人の再会の話「ABCDJ」 などなど、コラム集「チーズバーガーズ ザ・ベスト・オブ・ボブ・グリーン」からさら…

米朝コレクション 桂米朝

桂米朝を最初に知ったのは、「千両みかん」だった。ふと立ち寄った店でカセットテープを衝動買いしたのだ。 まだ五十前後のころのものだろう。円熟し、はつらつとしていた絶頂期といっていい時期ではなかっただろうか。それで、病み付きとなってしまった。 …

千年の夢 齋藤なずな

文人たちの愛と死と副題にあるとおり、誰もが知っている文学者たちの愛憎模様が描かれる。 各作家の作品と評伝に基づくフィクションと断ってあるように、自由奔放に各作家の作品を料理して展開している。 与謝野晶子、高村光太郎、夏目漱石、芥川龍之介、林…

ダブル・ジョーカー 柳広司

「ジョーカー・ゲーム」に続き、「魔王」結城中佐率いる陸軍内スパイ組織D機関の活躍を描くスパイ・ミステリー連作集の第2作。 時代は太平洋戦争開戦前までの昭和初期だ。紹介にスタイリッシュという言葉がつかわれていたが、結城中佐のカリスマ性、冷酷さ…

シネマ古今集 瀬戸川猛資

清水義範の後をうけた「サンデー毎日」の映画コラム「シネマ免許皆伝」の百回分。 「幅広い視点から映画を紹介」とあるとおり、映画にまつわる様々な話題が展開されて興味深い。 映画はそもそも字幕なしでみるのが普通であって、字幕でみるのが変則的な見方…

映画でボクが勉強したこと 清水義範

「サンデー毎日」連載のシネマ・エッセイ。勉強などと堅そうなタイトルだが、自分の観てきた素敵な映画を楽しそうに語っている。大半はこちらも観ている映画についてで、そうそう、そうなんだよと共感してうれしくなった。そうなると、観ていない映画を、観…

ご冗談でしょう、ファインマンさん リチャード・ファイン

ノーベル賞を朝永振一郎とともに受賞した物理学者ファインマンが思い出を綴った自伝的エッセイ。 ファインマン少年は、ラジオの裏をあけ、いじるたびに手を休めて考えた。また、10代のときに三角法を解きながら、その数学記号が気にくわなくなって、自分で記…

完本・文語文 山本夏彦

名コラムニスト山本夏彦が、兆民先生、聖書、二葉亭四迷、樋口一葉、萩原朔太郎、佐藤春夫、訳詩集、中島敦等の名文を引き、文語文の力強さを述べる。 山本夏彦コラムの名調子が文語文によって培われたものなのもよくわかる。文語文の魅力とともに、ぐいぐい…

使える武術 長野峻也

著者初の新書。これまでの著作の総括本のような趣もある。武術の技の数々は、積年の厳しい修行を経なければ身につかないものではなく、その理論を知り、コツを学べば、年齢性別にかかわらず、誰でもすぐに実践できるという、これまで述べられたことがここで…

弩 下川博

弩(ど)とはボーガンのような武器のこと。 時は南北朝時代、因幡の国の智土師郷(ちはじごう)の物語だ。 子持ちで男やもめの百姓吾輔、鎌倉のそばの称名寺からやってきた光信、 楠木正成の郎党の義平太とその妹小萩らが登場し、前半は村おこしの成功物語で…

こころの処方箋 河合隼雄

心理療法家・カウンセラーとして権威的な存在だった河合隼雄による55のエッセイ。 悩みを抱えているとき、その言葉が、こころに響いてくる。 100%正しい忠告はまず役に立たない 説教の効果はその長さと反比例する 人間理解は命がけの仕事である 生まれ…

泣き虫しょったんの軌跡 瀬川晶司

二十六歳の年齢制限のため、奨励会を退会し、一度はプロ棋士への道を断念した瀬川氏は、絶望のふちから、アマとして将棋の楽しさに改めて気づく心境にまで再生をとげる。 アマ名人となり、夢にまでみたプロ棋士との対局が実現し、初戦の中座真四段(当時)に…

射都英雄伝(しゃちょうえいゆうでん) 【第2巻〜第5巻】 金

う〜ん、この物語をどう考えればよいのか。つまり、おすすめ本としてとりあげるべきかどうかということであるが、第1巻で大いに期待がふくらんだのとは、大分ちがった内容でした。 では、面白くないのかというと、面白かったです。 イヌワシを弓で射落とした…

羊の目 伊集院静

内股に牡丹の刺青のある夜鷹に産み落とされた子タケミは侠客となり、 親と思い定めた男のために一途に殺人を重ねていく。 驚くほどの澄んだ目をしていながら、武闘においては、ヤクザを震撼させた伝説的な侠客の一生が描かれる。 牡丹の女 観音堂 ライオンの…

少年譜 伊集院静

少年小説なのであるが、少年の頃の記憶を描いた短編小説集ともいえるのではないか。 最初の「少年譜笛の音」最後の「親方と神様」はともに、最後、一気に少年が老年を迎えた場面にとんで物語は終わる。 人生で大切なことを学んだ記憶、悲しさ、せつなさを深…

アー・ユー・ハッピー? 矢沢永吉

五十一歳になった矢沢永吉が「しあわせ」について語る。 熱い肉声がそのまま聞こえてくるようだ。 「成りあがり」は壮大な予告編だったと裏表紙にある。あの糸井重里編集の「成りあがり」は、鮮烈だった。 矢沢のファンだけでなく多くの若者の心をとらえたメ…

雨ン中の、らくだ 立川志らく

立川談志の弟子、立川志らくによる全十八章からなる談志論。 各章には、すべて志らくの好きな談志の落語のタイトルが並ぶ。(第一章松曳き〜第十八章芝浜) これが、志らくの入門から前座、二つ目、真打昇進、現在に至るまでの 青春物語とともに語られる。 …

狂気の沙汰も金次第 筒井康隆

夕刊フジ連載のコラムで、山藤章二の挿絵とあいまって、メチャクチャ面白い。 タイトルは、もちろん「地獄の沙汰も金次第」のもじりだが、一時期SF作家で はやって、「筋骨隆々仕上げをごろうじろ」(星新一)「短小包茎夜川を渡る」などの 作品がうまれ、…