バンドーに訊け! 坂東齢人 実は馳星周

馳星周として作家デビューする前、本名の坂東齢人名義で、本の雑誌に6年間書き続けた書評集だ。
齢人はレーニンからとったのだそうだ。
毎回の個人的な前振りがやたらと長く、二日酔い、競輪、愛犬の話、ゴールデンウィーク進行、年末進行に
対する愚痴などが語られる。これが、結構おもしろい。楽しみにしていた人も多かったのでは
ないだろうか。
そして本題のおすすめ本を、熱く紹介していく。あるいは、批評し、もっとこうしてほしかったなどと
注文をつけたりしている。
お気に入りの花村萬月については、毎作、絶賛したり、残念がったり、要望したりしている。
この間に、馳星周として、自身の小説観がかたまっていく様がうかがえることが興味深い。
「救いのない世界の救いのない物語。そこに生じるのは、絶望的にまで寒々しい孤独と、救いがない
ということ自体が救いであるという、逆説的な、脳味噌をぐちゃぐちゃにしてかき回されるおような
感動だ」例えば、藤沢周の小説に対するこのような記述がある。
しかし、なによりも、この書評集は、読み物として面白く、引き込まれるように読ませられるのだ。

馳星周は、香港のスター周星馳の名前を逆にしてつけたのだそうだ。
坂東は、この書評を書いている傍ら、デビュー作「不夜城」を書き、知り合いの編集者に持ち込む。
原稿料をもらう身で、出版されるかどうかわからない原稿を書き続けるのは、しんどかったと
どこかのインタビューで話していたような気がする。
編集者からしばらく連絡がなく、だめだったのかなと思っていると、電話があり「まだ、他に
持ち込んでないよね」と、いわれ、すぐに出版の運びとなったそうだ。
こんな暗い陰惨な話を読んでくれるかなという作者の懸念に相違して、「不夜城」はベストセラーと
なった。
小説としては、完成度も高く、気がつくと主人公の思いに共感しているという傑作で、
多くの読者を獲得したのもうなづける。

バンドーに訊け! (文春文庫)

バンドーに訊け! (文春文庫)

不夜城 (角川文庫)

不夜城 (角川文庫)