「談志が死んだ」 立川談四楼

立川流創設の引き金となった高弟、立川談四楼が談志逝去にあたっての談志への思いを綴った。 「赤めだか」の談春や「雨ン中の、らくだ」の志らくとは違う思いが伝わってくる。40年もたつと弟子でなく親子になっちまうと言い、 「このオヤジ、総領を始めとす…

銀河英雄伝説 田中芳樹

スペースオペラに属する小説だが、例えば、北方謙三の「三国志」を面白く読んだ人は、絶対堪能できる。 二人の軍事的天才の物語といえるが、ラインハルトは曹操、ヤン・ウェンリーは劉備と諸葛亮を合わせたキャラクターに近い。現在4巻目を読んでいるが、こ…

牛への道 宮沢章夫

脱力エッセイとあり、電車の中で吹き出してしまうので注意とあったが、それほどの過激な笑いではなく、思わずにやりとしてしまうという面白エッセイだ。 冗談なのか、真剣なのかわからない調子の文章がめっぽう面白い。 禅の悟りへの道を牛を題材にあらわし…

ざこBar 桂ざこば

米朝一門を支える桂ざこばの芸能50周年を記念して出版された自伝。 ざこばの落語は、決して流暢でない語り口から、その落語世界に引き込まれていくのだが、前段の語りがまた絶品だ。 そっちの方が面白いと言われて本人は腐ったりしているが、この本も、ま…

考えの整頓 佐藤雅彦

しなやかな知性が感知した不可解について、考えを整頓して文章にした、ということでしょうか。 27編すべてが面白い。ユニークな視点に感心させられるだけでなく、静謐なおだやかな気持ちにさせられる文章だ。また、さすが映像作家だけあって、図や写真の使い…

無私の日本人 磯田道史

無私であり、利他の精神で、ひたむきに生きた3人の日本人の傑作評伝。 穀田屋十三郎 中根東里 太田垣蓮月 みな、名利を求めず、無名で生涯を終えたが、接した人々の心に深く残った。 著者の表現を借りると「濁ったものを清らかなものに浄化する力」をもった…

タブーの正体! 川端幹人

元「噂の真相」副編集長によるメディアタブーの解説本。 皇室、宗教、同和、政治家、検察、警察、財務省、大手広告主関連(ユダヤ、一部大企業、電力会社、電通)、芸能プロダクションに対して、メディアが触れない実態が、非常に明確に述べられている。 な…

怪物はささやく パトリック・ネス

「怪物は真夜中すぎにやってきた」から始まる。重病のお母さんと二人で暮らしている十三歳の男の子コナー・オマリーのもとへ巨大なイチイの木の怪物がやってくるのだ。 怪物は3つの物語を話してきかせるから、コナーにその後、四つめの真実の物語を話すよう…

合葬 杉浦日向子

慶応四年・明治元年、彰義隊に参加した少年たちの上野戦争の物語。 未経験で、見通しのきかない、一途で揺れ動く心をもてあまし、悩んでいる少年たちが、必ずしも、信念をもって参加したわけでもなく、戦争の中で死んでいく様が、見事に描かれている。静かな…

望郷の道 北方謙三

賭場を仕切る家の婿となり、家業を発展させていく前半、台湾に渡り、菓子会社を創業、発展させていく後半。ひと組の男女の出会い、別れ、再会、そして故郷の地への帰還という大河恋愛小説であり、一代の事業成功物語でもある。 北方の曽祖父がモデルとのこと…

懐かしい人たち 吉行淳之介

随筆集から抜き出された追悼文もしくは故人となった人たちとの交友に限定した文章からなる あとがきは平成6年3月とあり、死去の4ヶ月前だ。 世の中にはどうでもよいことを冗長に小難しく語る輩がいる一方で、重要なことを簡潔に記述する人がいる。 吉行のエ…

今宵、あの頃のバーで 先崎学

週刊文春連載の人気エッセーの最新刊(連載は10年500回を超えた)。 あいかわらずの面白さで、将棋の現役プロ棋士の生活と意見が描かれている。 近作「千駄ヶ谷市場」は、とてもわかりやすいと喜んでいたが、執筆の苦労が語られている。 大変な労作だったの…

文章読本さん江 斎藤美奈子

「『いよっご機嫌だね、大将!』と思わず肩を叩きたくなるような雰囲気が文章読本にはただよっているのだ」 とあるが、そこを揶揄して、祝「文章読本」執筆○○さん江という意味合いで、本書のタイトルがつけられた。 文章読本執筆者といえば、文豪、大ベテラ…

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか 増田俊也

「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」といわれた不世出の柔道家木村政彦の名誉のために書かれた本だ。 力道山戦とは何だったのか、木村政彦とは、いかなる柔道家だったのか、7百べージ弱の大著を感じさせない面白さ。 やはり圧巻は、1951年ブラジル…

落語進化論 立川志らく

魅力ある落語とは何か、真摯に熱く語られながらも、内容はめっぽう面白い。 ・落語は非常識を肯定する ・落語は即ち人間の業の肯定である ・落語はイリュージョンである とは立川談志の定義だが、それを極めようとする志らくが、 ・名人の落語には江戸の風が…

いねむり先生 伊集院静

突然気を失うように眠ってしまうナルコレプシーという持病をもつ「先生」色川武大(阿佐田哲也)との交流を描く。妻を病で無くし傷心のサブローは、先生と出逢い、癒されていく。「チャーミング」と形容される先生の魅力、包容力、不可思議さ、孤独、寂しさ…

千駄ヶ谷市場 先崎学

対局日誌がよみがえった!当然のことながら、河口俊彦七段とは異なるテイストの観戦記となっており、将棋のプロ棋士の戦いのすごさ、読みの深さに触れられる内容となっている。現在、この人以外にこのようにプロ棋士のことを生き生きと描ける人はいないだろ…

縦横無尽の文章レッスン 村田喜代子

下関にある海の見える大学で行われた文章講座の内容をまとめたもの。 名文を読み、その文章のどこがすばらしいのか、筆者が名文で解説している。 小学生の作文から哲学者、科学者の文章まで、幅広く題材はとりあげられ、心が柔らかくなり文章を書いてみよう…

早雲の軍配者 他戦国時代小説

いま、戦国時代小説が新しい。富樫倫太郎「早雲の軍配者」は、足利学校で学んだ3名の学友が北条早雲、武田晴信、上杉景虎の軍配者となって活躍する三部作の第一作だ。早雲の軍配者作者: 富樫倫太郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2010/02メディア: 単…

BORN TO RUN 走るために生まれた クリストファー・マクドゥー

本書の内容は、訳者あとがきで、適切に説明されている。つまり、本書は、次の3つの物語が融合している。 先ず、故障がちなランナーだった著者が、メキシコ銅峡谷にいるという白馬(カバーヨ・ブランコ)と呼ばれる謎の人物を探し、史上最強の走る民族「タラ…

ロボット創造学入門 広瀬茂男

地雷撤去ロボットの開発から始まり、4足歩行ロボットTITAN、ヘビ型ロボット、安定して柔らかく把握のできるグリッパなど、興味深い話が続く。 特に、考えこんでしまったのは、アシモフのロボット三原則に言及したところだ。人間へ危害を加えてはならないな…

島津奔る 池宮彰一郎

記録的な勝利を収めた朝鮮の役の退却戦から話は始まる。「シーマンズ」として彼の地で恐れられた薩摩島津の関ヶ原の物語だ。 島津義弘を英雄として描いている。「奔る(はしる)」とは、島津義弘を助けるため、国元から家臣が一人また一人と上方に向かって奔…

 走ることについて語るときに僕の語ること 村上春樹

村上春樹がストイックに体を鍛えているという話は聞いていたが、ここまで本格的なランナーだとは知らなかった。毎年フルマラソンを完走し、100キロマラソンにも参加し、トライアスロンも挑戦している。 これは、エッセイではなく、メモワールだと本人が述べ…

ぼくんち 西原理恵子

「鳥頭対談」でゲラゲラ笑い、続いて「この世でいちばん大事な「カネ」の話」を読み、西原母子の関係や旦那とのその後を知った。鳥頭対談で面白おかしく語られただけではないことが分かり、そして、この「ぼくんち」を読んだ。とても読者に受け入れられない…

受け月 伊集院静

登場人物はなんらかのかたちで、野球との関わりがあり、その思い出も含めて人生の断片が切り取られている短編集。 さすがというしかないうまさだ。作品ごとに強い余韻が残る。受け月 (講談社文庫)作者: 伊集院静出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/03/15メ…

全思考 北野武

「大学をやめようと思ったとき、新宿の空は後にも先にも見たことがないくらい真っ青に晴れ渡っていた」 「東京の芸能界でビートたけしをひとり作るために、何万人が死んだと思ってんだ」 「作法というのは、突きつめて考えれば、他人への気遣いだ」 「人類の…

ふがいない僕は空を見た 窪美澄

コスプレセックス、出産など刺激的なシーンが出てくるが、登場人物たちは皆驚くほど純粋で生きることにひたむきだ。 久しぶりに面白い小説に出会った。ふがいない僕は空を見た作者: 窪美澄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2010/07メディア: 単行本購入: 13人…

抱影 北方謙三

どうしても、社会との折り合いがつかない。自らの中にある思いに突き動かされ、滅びに向かって進んでいく。そんな男の物語を、北方謙三は描き続けている。 最初に読んだのは、「檻」で、最近読んだ「煤煙」もその系統に属する。 今回は、主人公は画家であり…

美女と野球 リリー・フランキー

トイレに入って落書帳に記入。大のツマミをまわして出ようとすると逆流。 水位がどんどん上がってくる。落書帳をひきよせ「P.S.大変なことになりました」 こんなことしとる場合か!!さてどうする!?の箇所で、吹きだしてしまった。「女子が三人とも十七…

冬の眠り 北方謙三

傷害致死で3年間服役した画家仲木は、知人から提供された山小屋で冬を過ごそうとしていた。 北方には、芸術家の孤独と狂気を描いた作品群があり、この作品はその最初のものらしい。 朝起きて山中を走り、暖炉で薪を燃やし、酒を飲み、深い底へ沈んでいく手前…