鞄の中身 吉行淳之介

長編、エッセイも面白いが、吉行淳之介の短編はすばらしい。
世の中には、どうでもよいことを長々と記述する輩はいるが
核心的なこと、本質的なことをさらりと描き、分かる人に
分かってもらえばよいというスタンスの作家がいる。
吉行淳之介はその典型ではないだろうか。
そして、その硬質な文章は、必然的に他に置き換えたり、削除することは
できない純度の高いものとなる。
奇跡的とまで賞された読売文学賞受賞作の短編集である。
みなすばらしい短編だと思うが、個人的には「百メートルの樹木」が好きだ。

鞄の中身 (講談社文芸文庫)

鞄の中身 (講談社文芸文庫)

ちなみに、吉行淳之介は、ダダイズム作家の吉行エイスケと美容師吉行あぐり
の長男で、妹は、あの名女優、吉行和子だ。
連続テレビ小説あぐり」では、じゅんのうチャンと呼ばれていたっけ。
遠藤周作阿川弘之とは同世代で、第三の新人といわれる作家に属する。
存命中は、その洒脱なライフスタイルが、ものすごくかっこよかった。
対談、座談の名手ともいわれた。
余談ながら、映画「三丁目の夕日」で茶川龍之介と同居する少年の名前は
古行淳之介である。