仏果を得ず 三浦しをん

健(たける)が師匠の銀太夫から兎一郎とコンビを組むように言われるところから物語は始まる。
健はまだ三十ちょっとの若手に属する文楽太夫だ。文楽義太夫節、三味線、人形劇からなる人形浄瑠璃のこと。健は義太夫節を語り、兎一郎は三味線を弾く。時に煩悶し、時に納得のいく語りができて充実感を味わいながら、芸を極めようとする健太夫を中心に、ストーリーは快調に展開していく。仏果とは、修業によって得られる悟りの境地を表す仏教用語で、タイトルの仏果を得ずとは、芸の極みからみれば自分はまだまだ未熟であるというような意味か。
三浦しをん作品を読むのは、「風が強く吹いている」に続いて2作目だが、登場人物のキャラクター、会話、展開など、さすがのうまさだ。うますぎる。文楽はほとんど知らず、歌舞伎の知識を落語(蔵丁稚など)から得ている程度なのだが、非常に面白く読めた。

仏果を得ず (双葉文庫)

仏果を得ず (双葉文庫)