錦繍 宮本輝

秋の蔵王で10年ぶりに再会した元夫婦の往復書簡で展開する。
妻は再婚後、知的障害をかかえた子供をもうけて育てている。夫は落ちぶれて女と同居している。
ある事件から離婚した二人が、そこからの歩んできた道のりと、それぞれの思いが美しい言葉で綴られていく。
この小説は、再生の物語だ。元夫も、女と一緒に商売を立ち上げようとして、工夫を重ねていく。
知的障害の子供に熱心に話しかけていた子供の実の父親の描写などディテールが心に残る小説でもある。その父親はどのような思いを抱いていたのだろうと思ってしまう。
終わりのあたりで、妻が、力強く、その老齢の父親に呼びかけたくだりでは、胸がいっぱいになってしまった。
単なる男と女の小説では片付けられない名作だと思う。

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)