翼はいつまでも 川上健一

少年小説のベストテンには必ず入ると確信する小説。
主人公は、野球部補欠の中学三年生の神山少年だ。
なんとなく自信がもてない平凡な彼は、ある日米軍放送の
ラジオでビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」を
聴いて、電撃的ショックをうける。その興奮そのままに
クラスのみんなの前で聞いたままの英語を大声で歌ったところ
から、彼は変わっていく。
母親の死、父親との確執、教師の横暴、美人同級生への思い、
性交への興味、いろんなものをかかえる神山君は
夏休みに十和田湖へ一人で野宿をしにゆく。
その十和田湖畔で、なぞの多いクラスメイト斉藤多恵と
出会う。彼女はすばらしい音楽的才能をもちながら、中学生には
重すぎる過去ももっていた。
奇跡のような夏を過ごし、そして・・・。
久しぶりに読み返したら、また引き込まれ、電車の中で胸がいっぱいになり
涙がでそうになった。
そうか、これは神話なのだ。ストーリー展開がリアリティからいって
どうなのかなどと言ってはいけない。この小説世界にどっぷりつかり
この夏の出来事をうけとめるべきなのだ。そして、それは誰もが少年期
に持っているせつない記憶と通じるはずだ。
本の雑誌が選ぶ2001年度ベスト1にも選ばれている。

翼はいつまでも (集英社文庫)

翼はいつまでも (集英社文庫)