文章読本さん江 斎藤美奈子

「『いよっご機嫌だね、大将!』と思わず肩を叩きたくなるような雰囲気が文章読本にはただよっているのだ」
とあるが、そこを揶揄して、祝「文章読本」執筆○○さん江という意味合いで、本書のタイトルがつけられた。
文章読本執筆者といえば、文豪、大ベテラン記者など、功なり名を挙げた重鎮の方々がほとんどで、どの文章読本も「俺にもついに文章を指南するという仕事がきたか」という満足感に満ちているというのだ。
開祖谷崎潤一郎を含む御三家、さらに新御三家文章読本の論評から始まり、その指摘は鋭く心地よい。
さらに、我が国作文教育の歴史が述べられ、「あるがままに書け」の出所が明らかにされ、文章指南書が盛んに執筆された背景が説明される。
なるほどお、と腑に落ちる。
最後に「『文は人なり』なんていうのは役立たずで、ほんとは『文は服なり』なのである」と著者の意見が述べられ、大いに納得がいった。
「服だもん。必要ならば、TPOごとに着替えりゃいいのだ。で、服だもん。いつどこでどんなものを着るかは、本来、人に指図されるようなものではないのである」
文章読本、文章指南、名文の紹介などという本があると、つい手にとって見てしまうのだが、とても面白く読んだ。

文章読本さん江 (ちくま文庫)

文章読本さん江 (ちくま文庫)